2008年06月12日

#9 神戸ボウルと明治・関学定期戦

 先週の土曜日、6月7日、第58回神戸ボウルがあった。いわずもがな今年1月3日のライス・ボウルと同じ対戦である。松下電工と関西学院大学、が、双方にとりこの時点でのゲームの意味合いは異なる。両チームの今シーズンの設計図を推理したいファンからすれば見逃せないゲームである。モーター・スポーツのF1チームのようにもてる潜在力の最大値をスタッフ、メンバー全員でどう実現するか、1年をかけて読みつづける筋書きの見えない長いSAGA(物語)の序章である。

 神戸ボウルの歴史について。
 創設への布石を打たれたのは#2で紹介した米田満先生である。弟の米田豊さんは先生と協力され第1回の神戸ボウルの準備をし、ご自分もプレーヤーとして出場された。旧制奈良中学の調査に引き続き今回もご助力を仰いだ。今後追々に紹介してゆくが、他にも努力された多くの同輩がおられたことは言うまでもない。第1回大会はアメリカのボウル・ゲームにならって元旦に行われた。1952年(昭和27年)のことである。このときの優勝盾が保存されているという。今から20年近く前にこのボウル・ゲームの起源を調べた時にはなかった情報である。現在このことも含め資料の整理をしていただいているので詳細は回を改めたいと思う。

 さて、今週末の14日(土曜日)に明治大学・関西学院大学定期戦が行われる。最初の対戦は1948年(昭和23年)1月25日、場所は甲子園球場である。終戦後まだ間もない時なので、時代状況が現在と大きく異なる。第1回の甲子園バウルも現在の冬、12月第3週の日曜日とは異なり、春の1947年4月13日に行われた。明治・関学の試合日が1月という野球のオフであったのに加え、戦争のためグランドも荒廃しておりゲームができるフィールドが限られていたという事情もあった

 前述「バウル」ということばには説明が必要である。当時「甲子園ボウル」は第5回大会まで「バウル」と表記された。英語の“Bowl”、例えばサラダ・ボウルなどのように競技場がボウルの形をしていることに由来している。そのカタカナ表示が「バウル」であった。こうした例は他にも幾多ある。現在でも古いビルの玄関に「○○ビルジング」と書かれていたりする。したがっては第5回までは「甲子園バウル」であり、第6回の1951年から現在の「ボウル」に落ち着いた。

 第1回の対戦は、13−6で明治の勝利だった。1948年当時にタイム・スリップする。戦前の1934年(昭和9年)に創部し、戦争による中断までの9シーズン、関東でのリーグ戦で5度の優勝を遂げていた古豪明治にまだチームのかたちを模索し始めていた関学が胸を借りるということから始まった。はるかな格上にもかかわらず明治大学は西下してくれた。戦後、東海道本線にも急行、ましてや特急などなく普通の夜行列車で東京‐大阪間が10数時間かかった時代である。第2回目は翌1949年1月22日、関学は初めて明治を19−6で破り、新たな次元に進むきっかけをつかんだ。

 秋のシーズンが開幕した。関学は各ゲームに苦労しながらも勝利を重ね、関西学生リーグで初優勝した。そして「バウル」の時代の後期、第4回甲子園バウルに初出場し、初優勝を果たす。

 その後半世紀以上にわたり定期戦は続けられ今年で61回目になる。甲子園ボウルで明治と関学が対戦すると接戦となる傾向がある。さらに春秋、あるパターンが存在する。これまで春の定期戦で関学が明治に、0−22、0−56といった一方的なスコアーで敗戦を記録したのち、その年の甲子園ボウルであいまみえると、38−36、48−46という接戦を繰り広げる。このことに気づいたのはDVD“FIGHT ON, KWANSEI”を制作したときである。特に1985年の甲子園ボウルはめくるめくような好ゲームとなった。

 今年は大学1部リーグは東西ともに実力の接近したチームがいくつもあるのでリーグ優勝の行方は予断を許さない。しかし、明治・関学が前回1985年に甲子園ボウルで対戦したときのように現在の明治大学にはクォーターバック、ランニング・バックに逸材がそろい、今週末の対戦では両チームともフィジカルに見ごたえのあるプレイ展開してくれることを期待している。特に明治の3年生ランニング・バック、喜代吉(きよし)壮太は1985年の甲子園を沸かせ、そのすべらかで粘り強い走りを「スネーク」と形容された先輩ランニング・バック、吉村祐二に勝るとも劣らないといわれている。「喜代吉」という日本で12軒しかない稀少な姓を持つランニング・バックは1年生の時に一度見たきりだが、明治大学時代にはタイト・エンド、社会人になってからはワイド・レシーバーとして活躍した堀江信貴のようなプレイ・スタイルなのではないかと想像している。
posted by 日本アメリカンフットボール史 at 06:51| 記事