2008年05月28日

#7 関西学院初等部 歴史の始まり

 生物がDNAの二重らせんによって自らを複製するように、歴史も繰り返される。見方によっては繰り返さないという考えもある。前者につくならば歴史の研究は二重らせんの研究と似ている。「歴史を学ばないものはその日暮らしをする」という箴言(しんげん)がある。同じあやまちを繰り返さないためのいましめだが、現実世界はそうでないことを経験的に感じる人は多いであろう。またこのカルマ(業)を東洋的諦観をもって受け入れざるを得ない境遇があることも事実である。

 先週土曜日に今年4月に開校した関西学院初等部の見学会に出かけた。学院の建築の伝統を踏まえた簡素にして美しい施設だった。校舎のベージュ色の外壁が雨の中、新緑に映えている。1929年、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した学院の原型となるスパニッシュ・ミッション・スタイルに則ったデザインである。ヴォーリズは教会、学校をはじめとする多くの建築設計を手がけ、日本の近代建築史に大きな足跡を残した。

 チャペルも質実である。パイプオルガンも備わっていた。演奏を聴く機会があればさらに素晴らしいと思われる。初等部長(校長)の磯貝暁成(あきなり)先生がこのチャペルで見学に先立ってお話をされた。多くのすばらしいお話をされたが特に印象に残ったのは次の2つである。中庭は通常四方を壁に囲まれているのだが願われて、三方をガラス空間にし開放的なスペースにされたこと。また、百数十種、2千2百本の樹木を植えられたということ。

 以下、個人的な感想である。

 「パティオ(スペイン建築の中庭)は子どもの魂である。教室を巡る回廊には渡辺禎夫画伯の、ルオーの「ミゼレーレ」を想起させる版画が飾られている。人が回廊にいるときは建物の中にいるのだが、パティオにいれば回廊は魂を取り囲む外界である。パティオにいてキリストの一生を感受することにより底流に悲哀が流れる世界をありのままに受け入れることが可能である。

 それぞれの樹に名前を記したプレートがそえられている。子供たちがカタカナを読めれば樹の名前を自然に覚えるだろう。いつか木々は森のようになり小宇宙になる。多くの動物は捕食のために移動しなければならないが樹は動かず自給し自足して生きる。

 空海は万能の天才であり優れたデザイナーであった。マンダラを立体にデザインして五重塔を組み上げた。これと等質の精神がこの学校をデザインしており、奇(くす)しき跡をしるすアイコンをいたるところに見ることができる」

 現在は1年生から3年生までの3学年だが、4年生になればフットボールも行うという。ここから育った子どもたちがいずれ日本のフットボール史に新しい歴史を刻むかもしれない。校舎玄関の両脇に一対のヤマモモが植えられていた。一昨年、アメリカンフットボール部創部65周年を記念して作られたDVD“FIGHT ON, KWANSEI”の制作に参加させていただいた。そのときFIGHTERSのベースである第3フィールドの土手のフィールド全体を見渡せる小高い場所にヤマモモの樹が植えられていることを教えられた。この符合は偶然なのだろうかと思いつつ校舎を後にした。
posted by 日本アメリカンフットボール史 at 06:49| 記事